【イヌノフグリ】の命名者は牧野富太郎ではない!
イヌノフグリ(Veronica polita)は日本に古くからある在来種(または史前帰化植物)です。かつては路傍や畑の畦道などで普通に見られた雑草でした。
牧野富太郎(1862(文久2年)~1957(昭和32年))が生まれるよりはるか昔から日本にありました。そして「雑草という草はない。それぞれに名前がある」ので、この植物にも「イヌノフグリ」という名前がありました。
オオイヌノフグリ(Veronica persica)は明治の初めに日本に入ってきた帰化植物です。
1887(明治20年)東京お茶の水に植物採集に出かけた牧野富太郎はコバルトブルーの花が土手一面に咲いているのを見つけ、これを欧州原産の Veronica persica であると同定し、これまでに知られていたイヌノフグリの近縁種で全体に大型であることからオオイヌノフグリと命名しました。👈『ヘンな名前の植物』より
…ということで、イヌノフグリの命名者は牧野富太郎ではありません!
江戸時代の、草木図説(そうもくずせつ)にイヌノフグリの記載があります。
詳細は以下…
春の訪れを告げる小さな青い花【オオイヌノフグリ】を書いていて、この残念な名前「イヌノフグリ」(犬の陰嚢)は、誰がそんな名前をつけちゃたんだろう?💧と前々から気になっていたので調べてみた。
「イヌノフグリ 命名者」や「イヌノフグリ 由来」で検索すると『牧野富太郎博士が命名』と多くのページに出てくる。
え~!牧野先生ダメじゃん💧と思ったんですが、検索結果の中に…
⇒ヘンな名前の植物 - 株式会社 化学同人
目次の中に『イヌノフグリの命名者は牧野富太郎ではない』と書かれています。
この本を図書館から借りてきて読んでみると…
『その果実の形が雄犬の陰嚢に似ていることから名づけられ、江戸時代後期の1856~62年に出版された「草木図説 前編 巻一」(飯沼慾斎 著)の中に「イヌノフグリ」の名で出ています。』と記されていました。
では、草木図説(そうもくずせつ)を確認してみましょう。
⇒草木図説前編 20巻 - 国立国会図書館デジタルコレクション
わ!20巻、全1,419コマ(1コマ=見開き2ページなので、約2,800ページ)もある!
この中から「イヌノフグリ」を探し出すのは… ハチジョウツグミの名前の由来を「観文禽譜」6巻(約800ページ)から探し出したときほど大変ではなかった。
「草木図説 前編 巻一」だから、1巻(67コマ)の中から探せば済む。
そして、ありました! コマ番号 43/67
『亦扁圓堅ニ一道アツテ殆ト二箇相接ルガ如シ故ニフグリノ名アリ。』
はい。江戸時代の『草木図説』で「イヌノフグリ」の記載を確認することができました😃
ところで、『ベロニカ・アルフェンシス。羅』と記されていますね。
「羅」はラテン語の略なので、これは学名を記しているのかな?
ということは、海外の植物図鑑を参照していたということになりますよね。
草木図説とは - コトバンク によりますと…
『日本最初のリンネ分類による植物図鑑。飯沼慾斎(いいぬまよくさい)の執筆。草部20巻、木部10巻。草部は1856年(安政3)から1862年(文久2)にかけて刊行された。』へ~! 江戸時代にリンネ分類による植物図鑑が作られていたのですね! リンネ分類がなぜ重要なのかは…
⇒リンネの階層分類 - 進化の歴史|科学バー
ところで、イヌノフグリの学名は Veronica polita(ヴェロニカ・ポリタ)です。
ベロニカ・アルフェンシスは Veronica arvensis のようです。
⇒タチイヌノフグリ - Wikipedia
ちょっと同定ミスったかな?😅
それと、イヌノフグリの下に「婆々納」と書いてあるんですが、婆々納(ばばのう)って何?
「婆々納」または「婆婆納」で検索すると、婆婆納はイヌノフグリの中国名らしい。そして、学名は Veronica didyma 👈あれ~? Veronica polita じゃないよ💧
ん~ 困った。そろそろ〆ようと思ってたのに😅 もうちょっと🔍
「Veronica didyma 学名 シノニム」で検索したら…
⇒イヌノフグリ-3 6つの学名 Tenore,Fries,松村任三,牧野富太郎,山崎敬,環境省第4次レッドリスト
え~ 6つも学名があるんですか! つまり、シノニムが多数あるってことね。
あ~でも、動植物のことをブログに書いていると、否応なくシノニムに遭遇し、シノニムが10個ぐらいあるのはザラみたい。学名初心者には困惑の元ですけど😥
まぁ、Veronica didyma と Veronica polita を GBIF で確認しておきましょう。
⇒Veronica didyma Ten. シノニム
⇒Veronica polita Fr. アクセプトされた学名
それと、今回は「草木図説」でイヌノフグリの記載を確認しましたが、江戸時代には他にもいくつかの図説/図譜があって、イヌノフグリが記載されているのですね。
⇒イヌノフグリ-1 花,名は果実にちなんで江戸時代から,婆婆納,破破衲,救荒野譜,救荒本草,物品識名,救荒野譜啓蒙,救荒本草啓蒙,本草図譜,草木図説 - 林氏,西勃氏
最後に…『ヘンな名前の植物』藤井義晴 著
この本、かなり面白いです😃 図書館で借りてきましたが、私の蔵書にして植物を楽しもうと購入しました😊
あと、江戸時代(またはそれ以前)になぜ「イヌノフグリ」なんて名前を付けてしまったのかがうかがい知れる本が…
『伊勢屋稲荷に犬の糞:江戸の町は犬だらけ』仁科邦男 著
江戸時代は超リサイクル社会だったのですが、そこで犬がゴミ処理に重要な役割をはたしていました。犬はそこら中にいるありふれた動物で、同じくありふれた植物…春になるとまっさきに花を咲かせ、小さく並んだ二つの実をつける草を「イヌノフグリ」と呼ぶのは自然な発想だったのでしょうね。
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